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タイトル: そしてテントだ 年月日: 1992年5月 場所: 一ノ瀬高原キャンプ場(山梨県)
あらすじ: そしてとうとうテントを買いました
五月の連休、布団や毛布とともに新しいテントを車に積み込み、わが家自前のキャンプです
中央道を西に走り、山に向かっていきました。峠道を越えていくと静かなキャンプ場がありました
ようやく桜が咲き始めたところ、一ノ瀬高原キャンプ場です
テント生活、焚き火、ハイキング
自然の中で遊ぶことがとても楽しいということが判ったのでした

 

□□92年5月

 年がかわり、5月の連休にはキャンプに行こうと、ついに
テントを買った。

 キャンプ用のテントは大きく分けて2種類ある。家のようなかたちをしたロッジ型テントと、半円形にお椀をふせたようなドーム型テントである。ぼくは、設営や撤収の手間が比較的かからないドーム型のテントを、しかも5人家族のわが家でもスペースに余裕があるようにと、
モンベルのムーンライト7を選んだ。

 このときのテント以外の装備は、次のようなものだった。タープ1式、ランタン1台、イス4脚、テーブル1脚、小さなバーベキューコンロひとつ。煮炊きは
練炭七輪ホエブス725。まだツーバーナーは無かった。食器は家で使っているもの。シュラフも持っていなかった。代わりに毛布座布団を使った。

 さて5月。連休になった。天気は絶好である。
 目的地は、山梨県の山あいのキャンプ場。白樺の林と雑木林の中に小川が流れている。焚き火ができる。静かな山々と若葉色の木々に囲まれて、二夜を静かに過ごす。子供も小川で遊ぶだろう。
 峠を越え、さらにつづら折りの道をのぼって行くと、ようやくめざすキャンプ場の看板を見つけることができた。そろそろと砂利の道を進む。左手下にいくつかテントが見えてきた。林の中だ。ようし着いた。ここは
一ノ瀬高原キャンプ場である。

初めて設営した我がサイト
わが妻はエプロン掛けで七輪の前にすわりこみ
なにやら料理を作っています
当時のテント生活をしのぶ貴重な写真であります

 駐車場に車をとめ、舗装された道を駆け足で下る。坂を下りきった両脇に家屋があった。左手にはガレージ風の建物、右手は管理人さんの住む家となっている平屋の建物。さらに驚いたことに、左手の建物の横に大きな大きな犬がいたのである。ハスキー犬だった。水色の瞳を静かにこちらに向けている。わが家の子供達は檻の鉄柵にびたっと張り付いたまま動かない。犬も何事が起こったのかわからないでオロオロしている。

「ねえ、ねえ」
と、わが妻。
「うん?なんだよ」
「ほら、あそこ」
と指さした向こうに見えたのは、満開の桜の大木だった。時おり吹きあげてくる谷風に淡桃色の花びらがちらちらと飛んでいる。そこだけ時間がゆっくりと流れている感じだった。きれいだった。このあたりは、ようやく春になったばかりだったのだ。夜は冷えるだろう。

 指定されたサイトは眼下に小川を見おろすことの出来るテラスだった。地面にやや傾斜がある。高い方を頭にして整列すれば、枕いらずでいけそうだ。慎重に場所を見極め工事用シートを敷き、その上にぴかぴかの
テントを組み立てる。簡単だ。問題なし。燦然と輝くライトグリーンのテント。目にまぶしい。木漏れ日に小枝が映写されている。虫がさっそくよって来る。
 次にタープをセットする。完璧だ。リビングの空間も確保出来た。できた。とうとう
自前キャンプだ。

燦然と輝くムーンライト7を前に
テントの中は布団と毛布

 ゆっくりとした時間が流れていく。子供達はこのひんやりとした山のなかだというのに、小川の冷たい水に戯れている。もう、着替えなんてないわよ、という母親の悲鳴なんてお構いなしだ。
 ぼくは、
焚き火の用意をする。前のひとが使ったあとの石を組み立てて、小さなかまどを作る。パチパチと心地よい音とともに青白い煙が上がる。火は小さく保つ。ウインナーを木串にさして暖める。バーボンを飲む。谷から風が舞い上がってくる。空がしだいに虹色に変わっていく。

 食事は、炭火で焼いた肉とスープだ。子供達はキャアキャアと歓声をあげながら骨にむしゃぶりついている。
ランタンの灯と焚き火のあかりが、家族の影を大きく小さく梢にゆらしていた。

 マサキは、焚き火がとても気に入った様子である。山に入っていっては枯れ枝を拾ってくる。落ち葉を山のようにして白い煙をもうもうとあげて喜んでいる。七輪に炭を入れて暖を取ることにして、焚き火は子供にまかせる。もう、あたりは真っ暗になり、吐く息が白い。食器を洗いにに行ったわが妻かおりさんとトモカが帰ってきた。

 「そろそろ寝るよ、みんな中に入りな」
テントの中は、毛布と座布団が敷き詰められている。子供達は3人でオセロを始めた。寝る前にみんなで
シリトリ遊びをした。時間だ。おやすみの挨拶をして、全員が布団にもぐり込んだ。うーん、この温もり。うれしい瞬間だ。明かりも消した。外の気配が感じられる。山へと抜けていく通り風。タープが小さく音をたてている。だれかの笑い声が聞こえてはまたかき消されていく。月明かりがテントに雲の模様を縁取る。静かになった。

子供はテントの中が大好きだ
雨が降ればテントの中でオセロ

 斜面に設営したために、気がつけばテントの三分の一くらいのところに、みんながもみくちゃになってしまっていた。

 静かな夜明けだった。梢の先の空が白んできている。朝の陽がタープ越しにキラキラと葉陰を映している。昨夜の寒さが嘘のようだった。今日はこの沢沿いに山道を登り、林道に出るコースで
ハイキングをする。
 多めに炊いたご飯で、おにぎりをつくる。子供達も自分のものは自分でつくる。おにぎりをプラスチック容器に入れ、水筒に水、火器はホーエブス、そして少しのお菓子と雨具をザックに詰めて出発だ。

静かな山の斜面で休憩
遠くの山並みが綺麗でした

 道は沢沿いに進んでいく。時々魚の影がきらりと光る。苔むした杉林がある。朽ちたバンガローのような建物の跡。風が通りすぎていく。夏草の匂いがほんの少しだけした。山の斜面にすわり、みんなでお昼ごはんを食べた。じつに美味しかった。

 

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