□□8月12日 出発から到着まで
「おとーさん、もう3時過ぎてるよ」
の声で気付く。いかん時間がない。なんだかふらふらしながら、クーラーボックスにワイン、ジュース、肉類などを詰め込む。続いておにぎり用の塩鮭を焼く。
「おかーさん、寝たの?」
「寝てない。洗濯してたりしたら時間たっちゃった」
「悪いけど、おにぎり作って」
その間に子供達を起こす。子供達はほとんど寝ぼけていて夢遊病者のように柱に頭をぶつけたりしている。
子供を含め、全部の荷物を詰め込み出発。もう4時を過ぎている。この時間だと、なにも起きなければぎりぎりセーフ。事故か渋滞があったらまずアウトだ。
愛知県宝飯郡小坂井町のぼくたちの家。国道1号線を猛烈に走る。東名高速音羽蒲郡ICに15分で着いた。よしこれなら行ける。と、思ったのもつかの間。本線に入るといきなり渋滞の警告表示。夏休みの帰省ラッシュ。はるかむこうの岐阜羽島では50Kmの渋滞。前も後ろも車。追い越し車線をとにかく走る。
車は多いがストレス無く走って行く。どうやら待ち合わせ時間ピッタリに到着しそうだ。目印のカウボーイハットは家を出るときからかぶっている。彼らはぼくをちゃんと見つけてくれるだろうか。
東名三好IC手前が渋滞の最後尾。待ち合わせ場所まであと1Km。空も明るくなってきた。ライトをスモールに落とし、サンルーフを開けて東郷パーキングに入る。そろそろと辺りををうかがいながら進む。車がびっしりだ。うん?あそこに立っている人たちがいる。おっあれはライダーさんだ。その隣に犬を連れて立っている人もいる。HOPEさんだ。手を振る。間に合った。
「こんちは、どうもmIKEです」
挨拶もそこそこに出発する。東名はぎっしりである。小牧JCまで我慢の走行を行う。中央道に入ると車は多いが順調に走る。恵那峡SAで小休止。中津川ICからR257に入る。全く順調に走る。付知から加子母、舞台峠を越えるともう下呂である。
ドライブイン『いちい』で小休止。いよいよ飛騨に近づいた感じがする。味噌や煎餅などのおみやげが多い。
さて、こんどは最終目的地まで行く。ここまでで集合時間から約1時間遅れている。もう先に誰か到着しているかもしれない。
国道41号も順調。久々野から朝日村に向かう。周りの景色はどんどん変わっていく。
「トトロにでてくる風景みたいね。こんなところが今でもあるんだ」
と、わが妻が呟いている。
青屋川沿いに進むと、九蔵川と二又川に川が分岐する。その分岐点から少し上流の地点に「朝日の森」のアーケード。これをくぐって二又川沿いに進む。
2Kmほど進むと、いきなりテントの群れが現れた。キャンプ場である。予想に反して大きなところだ。すでに何人くらいいるのだろうか。受付で料金を支払い指定された場所に向かう。
「あんたたちの場所はええよ。このキャンプ場の奥座敷やから。今日はあんたたちだけだ」
と、受付のおじさん。
狭い道を入ると、両側を尾根に囲まれた沢沿いの細長い場所。白樺の木立が柔らかく日差しを遮っている。二又川岸のサイトと比べたら数段いいところだ。ようやくキャンプオフの開場に到着した。朝日村カクレハ高原キャンプ場である。
□□ 次々とメンバー登場
ぼく達より先に一番乗りしていたのは佳奈夢さんだった。谷に沿った細長いキャンプエリアの一番奥。そしてここがこのエリアの一番高い位置になるのだが、そこにすでにドーム天幕を設営していた。前室用にLLビーンの三本足の自立式タープを張っている。
「いやー、誰もこなかったらどうしようか、なんて、ちょっとコレもんでびびっちゃってましたよ」
これもんとは、冷や汗ものという意味であろう。佳奈夢さんはいかにも今風の若者という感じだったが、どこか礼儀正しい感じがした。その横にポッという感じで立っているのは奥さんで、ソバージュのヘアを後ろに束ね、色白でちょっと丸ポチャタイプの人。半袖のTシャツで雰囲気は保育園の先生という感じ。
さて、ぼくらはそのエリアの一番下。大きな木の根本にテントを張った。少し湿気のあるところだったが、とてもすてきな場所だった。いまでもぼくはこの場所のことを時々思い出す。
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ぼくのテントサイト
大きな木の根本だった
写真左手側が入り口にあたり、ぼくはさながら門番みたいな役目だった
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ぼくがテントを張り終えた頃、下の方から一段とおおきな車の音が聞こえてきた。見ると濃緑のラルゴである。ズンゴズンゴという感じで上がってくる。その姿に思わず、どこからか八代亜希のど艶歌が聞こえてきた、ような気になった。
ウィィィィン、いきなり車が横滑りを始めた。すっごいぞ、これは。スピンターンで向きを変えるらしい。素晴らしい。なんて運転技術なんだ。これ以上インパクトのある登場時のパフォーマンスはないだろう。と、思いつつ、ぼくは注目した。と、車は中途半端なところで止まった。
「いやー、良く滑るわ、つーるつる。アクセル踏んでもダメ。タイヤもツルツルだでねえ。おーい、ライダーさん、むつごろーでーす、いま来たよー」
その車はただ単に草で車輪を滑らせていただけであった。むつごろー氏は細身の体と角張った顎に白髪交じりの髭をたくわえ、野山を駆けて苦節20年、なんでもわからん事あったら聞いてよね、という感じでいつもでかい声で話をしている。しかしもっぱらその姿は、バラエティ番組に良く登場するぶっ飛びファッションに身をつつみ、歌などうたう某推理小説作家とうり二つ(彼は最近出てこなくなったけどね)。白い色をした山羊みたいな犬が一緒である。名前はジョンである。ぼくが近づくと鼻を鳴らした。こんな名前つけられてるけど、わたしは娘よ、と寂しげな瞳で訴えていた。
ぼくは、HOPEさんちにわが妻ともども行ってみる。彼の処では、タープの下に自家製のテーブルと七輪がセットされている。テーブルの天板はすのこである。すのこ板の真ん中を切り落とし、七輪がぶら下がるようになっている。ウーム簡単にして便利なやつだ。このアイデアいただきだな。と呟く。彼はコットをセットし、くつろぎ体制に入ろうとしている。
HOPEさんは丸い眼鏡を掛け、物静かに作業をする。ところが、この人はだれあろう、某下北沢のすずなり劇場の人気者、あの看板役者梅沢某にそっくりなんですね。それを物静かにした感じ。そう言えばここの家族はみんな静かだ。奥さんはおかっぱの髪で、あのー、はい、ええそうです、なんて相づち系の会話をされるひと。お嬢ちゃん二人も、声をかけると、ウン(はい)、ウウン(いいえ)系の会話をする。リトリバーの名犬キッシュも決してほえないし。
ライダーさんはと見ると、もっぱら今日のメイン会場を設営している。首にはクリーナップ携帯灰皿をぶら下げている。ライダーさんは、細面の京風男子顔で、目がいつも一本線になっている。それはつねに笑っているからである。
さて、このメイン会場は、すなわちライダーさんちのメインダイニングでもあるわけだが、まあ、よくもこんだけ出てくるわ出てくるわ。テカテカに光っているテーブルは、自作のテーブルで、一枚板仕様になっておりこれまた七輪がスポッとはまる穴あきになっている。その横にはペール缶3重構造のこれまた自作のスモーカーである。その他、調理用のテーブル、やかん、食器、小物、調味料、まだまだコンテナのなかには秘蔵の品がありそうである。
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タープが連結してあるところ
ここがメンバーの集まるメイン会場だった
その周りを取り囲むようにメンバーのテントがある
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「変わった焼き網ですねえ」
およそ10cm四角の網である。
「これはですねえ、これなんですよ」
「?」
と言ってでてきたのが、ほお葉味噌セットの箱。中にミニチュアの卓上火鉢が入っている。
「これを売ってるとこ行くと、店の奥の方に置いてあるんですよ」
とライダーママ。
ライダーママさんは、丸っこい(^^)に眼鏡をかけ、ちょっと肝っ玉かあさん風な物腰でてきぱき、はきはき、きびきび、すたすた、あーしんど、どりゃもうひと仕事、という感じでいつも仕事をしている。その感じは、小学校の担任の先生である。
おっ、また下から車の音だ。青く光るセレナがヒューンという軽快なエンジン音をさせて上ってくる。薫製つくりを取り仕切る幹事、まるいささんのお出ましだ。
お迎えの後、まるいさ家もロッジ天幕を組立始める。まるいさファミリーはみな、まあるい体躯に、まあるい顔で、その割には四角いロッジ天幕を設営している。下の子みーちゃんはベビーチェアの中で両手をばたばたさせている。上の子ちゃーくんは、すたこらすたこら、そこいら中を歩き回り、いつも行く先はむつ氏のところのジョンのところである。手をだしては、ガブリ、エーン、おとーさんに怒られる。すたこら、ガブリ、エーン、怒られる、を繰り返している。おかーさんはそれを見て笑っている。おかーさんもふっくらとして色白の保母さんみたいな人である。なんだか、先生とか保母さんの多いサイトになってきた。そういえばうちのおかーさんも保育科だったかな。
またまた、音が聞こえて来る。とにかくぼくのサイトは最も下側に位置しているので、誰かが入って来ようものなら真っ先に発見してしまうのである
おっ、こんどは緑のビッグホーンである。後ろにMTBを2台くくりつけている。この人こそだれあろう、12日間の夏休みを連続キャンプの荒技で乗り切ろうとしているテールウォーク氏とその一族であった。今日の乗鞍オフがその締めくくりなのだそうである。車から降りてきたのは、すこしひょろりとしたテール氏とたっぷりワンピースに身を包んだおくさん。そして目をキラキラさせた男の子二人。
テール氏は
「どうもー、テールですー。いやー、ここー、場所がー、いいとこですよねー」
と、ちょっと語尾を延ばすくせを持つ今風の東京の人。奥さんはくりくりの目をして、パパはわたしが操ってるのよ、という自信を感じさせる料理上手な人であった。他人に見えないところで旦那をからかって楽しんでいる。この掛け合いがじつに面白いのであった。
子供達はヤスとマー。天気予報をしたら当たりそうである。いきなり、わがサイトへへんてこな漫画を書いた木切れを持って襲撃してきたのは彼らだった。今回のジュニア探険隊のなかで一番のわんぱく度を発揮していたのも彼らであろう。
昼食を各自とった後、ぼくは燻製用の虹鱒を苦難の調達に行くのであるが、この顛末はなにかの機会に書くことにする。その間に洗濯屋山ちゃんとゴンパパ氏の各ファミリーが到着していた。両家の紹介は次の章とします。
さて、メイン会場で各ファミリーの自己紹介を行い、ぼくが指揮することになっているジュニア探険隊の結団式がおごそかに始まった。
「おとなもこどももノリクラ・ジュニア・たん・けん・たい!おーっ」
の雄叫びが周りの木々に吸い込まれていった。
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当時中1のトモカが書いたイラスト
乗鞍ジュニア探検隊のモチーフ
ぼくがつくった手製のパンフに載せた
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□□ いよいよ燻製作りが始まる
今回のオフは、「みんなで燻製作ってみよう会」という、ライダー幹事の主旨宣言のもとに参集してきた人たちの集まりである。今日のこの日に備え、スモーカーを作ってくる人、特製テーブルを作っちゃった人、仕込みに燃えて寝てない人、試作の繰り返しで疲れちゃって燻製なんてもういいやという気分になってしまったような人ばかりなのである。
スモーカーは自家製派と既製派が半々といったところ。自家製派のチャンピォンは、やはりライダー氏の、ペール缶3段重ね容積30Lところどころステンの部品採用温度計付きイスにもなります、のスモーカーだろう。
次の自家製派はむつ氏と山ちゃんの、レンジパネル利用スモーカーである。これはなるほど簡単である。レンジパネル2枚を四角く組み合わせ、S環などをパネルのへりに引っかけ、内側に網などを吊るすとその重みできちっと自立してしまうのである。蓋にはホイルなどを用いる。畳めばほとんどスペースをとらないので、収納性はぴかいちである。
さて、自家製派の真打ち、おおとりは、mIKEさんの一斗缶スモーカーである。mIKEさんの場合、使い込まれた内面は茶色くテカテカとにぶい光を反射し、車の中に一日入れておこうものなら、たちまちにしてすべてのものに燻製の匂いが付いてしまう。気分だって悪くなってしまうのだ。こんなスモーカーで燻製にされる虹鱒達の至福の表情を君に見てほしかったなあ。
既製派の大部分は、あの伝統のフォルム、DS御用達のスモークちゃんであった。やはり大手商業ベースで売り出している大企業の製品はさすがに一部の隙もない。良い味を出していたのは、概ねこれらの既製品スモーカーからの作品であったのは事実である。
各サイトからもくもくと煙が立ちこめ始めた。ぼくは今から虹鱒の仕込みである。腹を割いて内蔵と鰓をはずす。その後粗塩にまぶし寝かせる。ここまでやってしばらく待たねばならない。すっかり出遅れてしまった。
「どう、これ、食べてみて」
と、むつ氏が持ってきたのはピスタチオの燻製。ピスタチオを殻ごと燻煙したもので、ほのかに香ばしい匂いがしている。うーむ酒のつまみである。もはやみんなどんどん制作に励んでいるのだ。
やや焦り気味な気分になっていると。
「mIKEさーん、いまねー、山の方へ行ってきましたよー」
という声がした。ゴンパパさんの登場である。山岳犬ゴンタを引き連れている。彼はすらりとした体つきで、頭のてっぺんからつま先まで、みごとなアウトドアグッズに身を包んでいる。その姿はまさにアウトドアボーイ。そのこだわり度は今回のオフ参加者のうちで一等賞である。
「この沢の上へ行ってみたんだけどお、すぐそこで堰堤にぶつかっちゃうんですよね。右に巻いていけばあ、いいかもしれないけどお、ザイルで確保が必要かもしれない。うちのドレイにもってこさせればいいからあ、あとで行ってみます?」
彼は自称二十歳、今どきの若者言葉をつかう。しかしアクセントはちゃきちゃきのさわやか尾張風なのである。これが実に切れ味のいい感じなのだが、文字で伝えられないのが残念である。
ちなみにここでいうドレイとは、ゴンパパさんの友人でイトー君という。ひとあたりの良い好青年である。彼は翌日のカレー作りでついにドレイの本懐をはたす。他称十七歳のゴンママさんはゴンタの手綱を引くゴンパパの手綱を引いてる感じで、赤めのウェアを着込んでいるためか元気のよい女性ワンゲル部員といった感じである。
「じゃ、あとで行って見てみましょうか」
「mIKEさん、ご飯炊くんだったら、この釜で一緒にどうですか」
といって一抱えもあるどでかい釜を持ってきた人がいる。洗濯屋山ちゃんである。山ちゃんは今回のメンバーの中にあってひと目でわかる4番サード山ちゃん、なのである。川でこんな会話をした。
「山ちゃんは、あれですか、ちゃきちゃきの虎キチですか」
「ええっ?いやー、そんなこといわれたの初めてですよ。わかります?なんでかなー、ははは」
ぼくは今回、このキャンプ場内をかなり歩いてみたのであるが、カクレハ狭しといえども、白地に黒の縦縞ストライプの入った帽子をひさし目深にかぶり、しかも娘にまできっちり同じ帽子をかぶせていたのは、山ちゃんあなた一人だけでした。そばでは奥さんがガンバ大阪の帽子を被り、髪を三つ編みにしてにこにこしている。
山ちゃんとむつ氏がでかい釜で飯炊きを始めた。サイトにいよいよ夕闇がやってこようとしていた。
□□ 虫取り作戦
「たいちょー、まだ虫取り、いかないのー?」
テール氏の長男ヤスが目をきらきらさせてやってきた。
「よーし、そろそろ行くかあ」
木に塗るための塗り餌は、すでに調合ずみで、コッヘルの蓋をあけるとプーンと実に香しい。子供達を引き連れて出発する。沢にある水神の石碑に全員で手をあわせてから、尾根の急斜面を登っていく。尾根道の広葉樹の適当な木の幹に餌を刷毛で塗っていく。子供達の何本もの手がコッヘルをたちまちのうちに空っぽにしてしまった。
「よーし、今日の夜、ここへまた見に来ような」
「はーい」「ハーイ」「ウッシャア」
実に素直な連中である。
虫取り作戦は結果的には失敗だった。翌日の早朝に飛び起きてこの場所に来てみたのであるが、虫の姿も痕跡も無かった。この地域の気温が低すぎるのだ。一晩中点けっぱなしにしていたランタンの灯りにもほとんどなにもやってこなかった。山でワクワクしながらペタペタと餌を塗っていた少年達には申し訳なかった。
□□ 晩餐会
メイン会場にランタンがひとつまたひとつと灯っていく。いよいよ思い入れと趣向を凝らした燻製が一同に会するのである。ぼくも自分の燻製の出来具合を見ながら会場へ緊張しながら向かった。
すでにテーブルは5本くらい連結され、周りは各種各様のチェアが所狭しと並んでいる。ライダー家では豆炭の赤々と熾った七輪から煙が出始めている。向こうでも、まるいさ家が卓上七輪でとんちゃん焼きを始めている。
「mIKEさん、mIKEさん、ほらほら」
むつ氏がビールを注いでくれる。
「これ、どお、食べてみて」
「なんですか?これ、うっうまい!」
「ホタテ、ですよ」
むつ氏が今回のために、わざわざ図書館におもむき製法を学んできたという驚愕の一品であった。ほたての良い風味が実によくでている。
次にテーブルの上に目をやると、ホーローの皿の上にちっぽけな肉片がある。ん?なんだろうとつまみ上げてみた。
「!!うま!うま!うま!うまい!!」
見た目はへんてこりんな肉片なのだが、スモークの香りと微妙に甘辛い味が絶妙にマッチして深い味わいがある。まるいさ氏の特製スペアリブ燻製だった。
「佳奈夢さーん、チーズどうなった?ワインはちゃんともってきたよ」
次に佳奈夢氏のところへ行ってみる。
「いやー、なんか、ふつーのチーズつかったんでー、これもんでとけちゃったっすよ」
ここでいうこれもんの意味は、たぶん急速にとか、知らないうちに、というようなところであろう。
「でもー、これもってきたっすから。あのーいちおービンテージもんなんっすよこれ」
と言って取り出してきたのがフォアローゼス銀ラベルだ。
ムフフフフフ。彼はぼくの目尻が突然45度くらい下がったのが見えなかったのだろうか。
「こっ、こっ、これはいいですね、あちらでいただきますか、ちょっとだけ」
悲劇の幕開きだった。
「チーズなら、うちでも作りましたよ、どうぞ」
とHOPE氏が三角の小麦色をしたチーズをくれた。ん?プロセスチーズかなと思って口にした。!!うま!うま!うま!うまい!!
「なんか違いますよ、これ。あれ?チーズになにかはいってますね」
これはチーズの中に辛みの成分が封じ込めてあるのだ。その風味とスモークの香りが絶妙にマッチして深い味わいがある。もう語彙が少なくていい表現が見つかりません。
「mIKEさん、これはどう?」
山ちゃんちのウインナーである。!!うま!うま!うま!うまい!!
「これは?」とテール氏!!うま!うま!うま!うまい!!
「これ、どう?」!!うま!うま!うま!うまい!!
もうなにがなんだか判らない。しかし判ったのは、燻製というのは基本的に酒の肴であるという事である。こりゃもう誰がなんて言ったって、おさけ、ちょーだい。
「佳奈夢さん、フォアローゼスちょっといただきますよ」
「あっ、どうぞ」
「佳奈夢さん、フォアローゼス飲まないの?」
「いやー、どうしようかー、いやー、このひとがねー、これもんなんっすよ」
「だめ。ぜったいに、だっ、めっ。今日はこれから乗鞍まで朝日見にいくんでしょ?車で行くんだから。わたしは運転しませんからね」
くるりん顔の奥さんがキッとにらんでいるのである。それじゃあ、ぼくも少しにしておきます。フォアローゼス。
会場の中は人の笑い声と煙につつまれ、とても和やかに時間は過ぎていった。
この後、乗鞍山頂で日の出を見るひと達が出発していったのだが、ぼくはすでに、アンズ酒だとかワイン、ビール、ウィスキーをしこたま飲んでしまい、いつの間にか前後の記憶をきれいに忘れてしまった。
静かに静かに夜は更けていった。
□□8月13日 静かな朝
ん?あれっ?ここはどこだったっけ。ジーンと頭がしびれている。目をあけると明るいグリーンの天井が見える。そうだテントの中だ。ん?朝か?っていうことは、昨日の今日であるということは、きのうはここに着いたんだから、・・・・。あっ!いかん!虫を見に行くのをすっかり忘れてた。
あわてて、我が家の子供をおこして外に飛び出す。斜面を登る足に全然力が入らない。ぜーぜーと息が切れる。はあはあいいながら、昨日の場所に来てみたが、蟻んこ一匹見あたらない。だめだった。しかしほんとは昨日の夜ここへ来るわけだったのになあ。子供達にはなんて言って謝ろうか。
「おはようございます。気分は?」
とライダーママさんがやってきた。
「はあ、なんかむちゃくちゃ頭が痛くて」
「そうでしょうねえ、ホホホ」
「はあっ?」
バーナーに火をつけ、お湯を沸かす。どうにも気持ちが悪い。二日酔いみたいだ。ほうじ茶の葉をネットにくるんでポットに入れる。こんなときはこのお茶が一番いい。
空がだんだん青くなってくる。静かな朝だ。あれっ?車の数が少ないな。
そうだ、乗鞍山頂へ日の出を見に行った人たちがいたんだ。
チェアにすわって白樺の梢を追う。きれいな空が広がっていく。こんな朝のひとときを味わいたくて、自分はキャンプに来るのかもしれないな。あるいはいろんな道具を使ってみたくて、山に入ってくるのかもしれない。そう、あのスモーカーだって、家のガスコンロにかけて使うのと、こうして山のキャンプ場の大きな木の下で使うのとでは、出来上がりも違うような気がするのだ。
「mIKEさん、こっちきませんか。mIKEさんちの朝のメニューみてたら、うちもなんだか麺が食べたくてきしめんを茹でてますよ」
とむつ氏が昨夜の宴会場から呼んでいる。
「いやー、なんだか胸が悪くて、どうしようもないんです」
「そりゃ、結構飲んだもの。ぼくも気持ち悪いよ。でも、けっさくだったよね。mIKEさんの奥さんが、もう飲まないでってmIKEさんのズボンのベルトつかんで引っ張ってるのに、ガンガン飲っちゃうんだものな」
「えっ????・・・」
「あれ?覚えてないの?」
「はあ、いやっ、あっあのう・・まあ、すこしは・・」
「それに、ランタン持って山行っちゃったでしょ、ちょっと冷や冷やしたけど、よく戻ってきたよね。まあ子供達といっしょだったから心配はなかったけどね」
「はぁ??????」
「そうそう」
といいながら、まるいさ氏。
「ユータロー君との掛け合いもけっさくだったよね」
「はぁ…」
「おいっユータロー、こっちこいっ、て感じで、肩組んじゃって、君の誕生日はいつだ、なんて言ってましたよ」
「ははぁ・・そそそうでしたね・・・ははは…はぁ」
まずい。そう言われてみればたしかにそんな事があったような気がする。ランタンを片手に山を登って行ったときの記憶がとぎれとぎれに蘇ってきた。いかん、話題を変えなければ。
「そういえば、登山隊の人たちは日の出に間に合いましたかねえ」
「今頃高山にむかっているんじゃないの」
HOPE家とまるいさ家が同じように頭痛いよなどと言いながら、高山朝市へ買い出しに出発していくのを見守り、むつ氏とさらに話をしようとするのであったが・・。
「mIKEさん、これ、こうすると迎え酒にいいんだわ」
ボトルに4分目ほど残っていた佳奈夢氏自慢のフォアローゼス銀ラベルを取り上げ、カップにトクトクトク、そしてお湯を注いだ。あたりに何ともいえない甘い香りが漂った。気が付いたら、ボトルの中身はほんの申し訳程度に底を濡らしているだけだった。
□□ 探険隊出発
太陽が明るい日差しを我々のサイトに投げてきた。涼しい風が白樺の木立を通り過ぎていく。
さて、探険隊の西瓜割り大会の場所を探さなくてはならない。サイトに残っている子供達を引き連れて出発する。
このキャンプ場は二又川沿いにサイトが広がっている。さらに川沿いに進んでいくと、幕営禁止の立て札があり、そこからさらに奥で二又川の支流に入る事が出来た。いのしし滝の手前にあたるその場所は、適度な広さの河原があり、また子供の水遊びにも格好であった。頭上をおおう木々の隙間もあり、フライキャスティングも可能に思われた。
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二又川支流 水はとて冷たい
ここで西瓜割り、フライキャスティングなどをおこなって遊んだ
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連れていった子供達は早速水に飛び込んでいった。ユータロー少年は親のしつけが良いために、きちんと靴と靴下を脱ぎ、一礼してからそろそろと水辺で遊んでいる。わが子は、親の制止も聞かず、もうパンツまで脱いでいる。
子供達のはしゃぐ声と水しぶきがキラキラと舞っていた。
子供達を川に残しサイトに戻ると、日の出見隊のうちライダー氏と山ちゃんがちょうど戻ってきたところだった。ライダー氏が崩れるようにして車から落っこちてきた。
「ぷはー、もうだめ、ちょっとやすませてー、2時間しか寝てないんだわ」
「いやー、おつかれさま」
「そうそう、西瓜買ってきましたよ、メロンも」
早速、西瓜とメロンをザックに詰めて川へ戻って行く。山ちゃんも西瓜を持って同行してくれた。山ちゃんはすべての企画にフル参加の皆勤賞である。
「で、どうでした、日の出は見えましたか」
「山頂へ着くのはちょっと遅れちゃったけど、見えましたよ、結構寒くてね、でも佳奈夢さんとこは元気だったわ、奥さんなんかTシャツで頑張ってた」
「山頂のコーヒーの味は?」
「結構美味しかったですよ」
HOPEさん達がやってきた。特製パウンドケーキを作ることになっている。コッヘルやバーナーをセットしている。キッシュが川に飛び込んでいく。
何かを忘れた。そうだ。ビールだ。まだうちのクーラーボックスには冷えたやつがあったはずだ。取りに行ってこよう。道を走れば10分くらいだ。一汗かけばうまいだろうし。
サイトに帰ると、買い出し隊のめんめんも帰ってきており、なにやらメインタープの下でワイワイやっている。むつ氏が手打ち蕎麦を打っているのだ。
「mIKEさーん、どうぞー」
ライダーママが器を出してくれた。
麺は3ミリ厚くらいの角張ったものである。むつ氏がまだ子供かそこいらくらいの頃から家で使っていたという、製麺機で延ばしてあるからだ。細目のうどんくらいである。
一口いただく。見た目は堅そうだったが、口の中でモサモサせず、かといってべたべたもザラザラもせず、たしかにこれは紛れもなく蕎麦だっ、と思わせる。
「!!うま!うま!うま!うまい!!」
みんなが、でしょー、という顔をしている。
「ところでmIKEさん、どうしてもどって来たの?」
「ビール・・取りにきたんで・・・す」
「・・・・・」
□□ 川で遊ぶ
再び川に向かった。いやー、この暑い中。林道の往復はこたえるなあ。と言いつつ、心は冷たいビールに向かっている。
川に戻ると、なんと必殺から竹割りよろしく一刀両断にされたきれいな竹が、清流のなかに涼を呼ぶがごとく設置してある。
「流しそう麺やりますよ、竹はテールさんが禁断の領地で横領してきた奴ですぞ、味はおまかせっ」
と山ちゃんが張り切っている。こんな隠れ企画があろうとは思わなかった。ますます楽しくなってきた。横ではHOPEさんがプーンと香ばしい匂いを漂わせている。
「流しそう麺だー」
「ワーッ」「キャッホー」
子供達が殺到する。こいつらは食べ物と見た日には一気に食らいつくピラニアにたいな嗅覚と、ブルース・リーみたいによく動く両手を持っている。
清流の水を使った流しそう麺がにぎやかに始まった。
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流し素麺をやっている大人
右列一番向こうの茶色い帽子がぼく
その手前にテール氏
さらに手前に洗濯屋山ちゃん
ぼくの向かいにHOPEさん
竹竿はほんの3メートルくらいだったが、水が冷たくて実に美味しかった
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さて、山ちゃんは今日のこの日のために、フライフィッシング用の釣竿一式を準備万端整えやってきた。教えるは、長いキャラバンも終盤を迎え、もはやいつ家を出たのか、今日が何日で何曜日かも忘れてしまい、近じかやってくる出社の日の事を考えると、かすかな恐怖と寂しさを禁じ得ないテールウォーク氏である。
「これがー、ああなってー、こうなんでー、こうするんですよ」
なにやら講釈があり、川の下側でキャスティング教室が始まった。
山ちゃんはさすがに一生懸命やっている。黄色いラインが前後にループをつくり、ひゅーひゅーいいながら動く様は、見ていて不思議な感じである。ぼくもテール氏のロッドを借りてやってみることにした。糸の先には、テール氏手作りのフライがついている。
手首の使い方を教わって、投げてみる。ひょう、という感じで飛んでいく。
「この細いラインの重みを感じるようになるといいんですよ」
とテール氏。これがなかなか思うように飛ばない。
「慣れたら、左手で糸に勢いをつけます」
たはーっ、だめだ。左手と右手の動きがバラバラで、へたくそな盆踊りをやっているみたいになってしまう。
テール氏に見本を見せてもらう。やはりぜんぜん違う。ラインの勢いや、手首の動きにメリハリがあるのだ。まるでラインが生きているように見える。
そのうち、ゴンパパさんや佳奈夢さん、まるいささん達がやって来て、川はますますにぎやかになってきた。子供も犬も大人もそれぞれが楽しく、それぞれの興味のおもむくままにケーキを焼いたり、ロッドを振ったりして、遊んでいた。
「すいか割りやるぞーっ!」
「わーい」「はーい」「キャッホーッ」「うっしゃあ」
ぼくの指示でじゃんけんをし、順番を決めた。1個目の西瓜に挑戦する。
目隠しをし、3回まわってから一歩すすんでたたく。これがなかなかあたらない。子供達のキラキラした目。はずれて悔しそうにしている顔。どれも輝いている。
「二つ目の西瓜は子供達が自主的に順番を決めて割っちゃったわよ」
「オッケーだね」
ぼくがフライにのめり込んでいると、わが妻が言ってきた。それでいいんだ。子供は最初だけ教えてやればあとは自分たちでやれる。
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西瓜割り
子供達の歓声が狭い谷にいつまでもこだましている
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気がつくと、太陽は西の方に傾き始めていた。そろそろ帰ろう。濡れないように気をつけていたはずのユータローも、頭からずぶぬれになっている。みんなすっかり仲良くなっていた。
□□ そして終幕へ
「おーい、ライダーさーん、カレー大会はどうやってやるのー」
「てきとーに、いきましょー」
最後の企画、カレー好きのカレーによるカレーを豪快にいただくための大晩餐会の始まりにふさわしいやりとりである。
川から戻ってくると、すでにサイトでは夕餉の支度が始まりかけようとしていた。メインタープの下で簡単な打ち合わせが始まった。
「カレーの用意をしてきた人は何人いますか」
「はい」「はい」「はい」「はい」「はい」
「ほぼ全員ですな」
「でっかいお鍋みたいなものはありますかね」
「ない」「ない」「ない」「ない」「ない」
「中身はどーなってますかね」
「にく」「さかな」「かぼちゃ」「コーン」「枝豆」
「これはやっぱり、てきとーにいきますか」
およそ5ヶ所に分かれて、カレーが参加者全員のTipsを寄せ集めて作られることになった。
風上からプーンと良い香りがしてきた。HOPE氏のあたりからである。
「どっひぇー、ちょちょっとみなさん、これこれこれ」
佳奈夢氏が呼んでいる。見ると、HOPE氏がこれまた豪快に全量4キロに及ぶ肉の角切りを、これまた豪快なボールのお化けみたいな容器で炒めているのである。あたりに肉の焦げる何ともいえない良い匂いが漂ってきている。
「HOPEさん、これ何人分くらいあるの?」
「さて、20人分くらいですか」
山ちゃんのところに目をやると、山ちゃんがなにやらたくらんでいるのがわかる。
「どうしたの?」
「ムフフ、カレーは極辛、極辛ですよ」
最強の極辛カレーをめざしてすでに体制は整ったようだ。家でカレーをする際にも山ちゃんだけは、極辛でないとたべないもんね、とだだをこねているそうである。
ゴンパパ氏がついにどれいのイトー君を送り出してきた。イトー君はタマネギ切りから始まり、その他野菜の切り方、材料の炒め、ルウの調達から鍋のかき回しまで、幅広く活躍している。最初は二鍋を受け持って調理していたが、ついにその集中力を一つの鍋にそそぎ込むために、一つを佳奈夢氏のところへ提供するようゴンパパ氏から命令された。泣く泣くイトー君はひとつの鍋とお別れをした。
一方、鍋を預かった佳奈夢氏は、ここぞとばかりに渾身の技を繰り出してきた。ヨーグルトをパーコレーターのこし器で裏ごしして投入、火加減を微妙に調節しながら、弱すぎず強すぎず加熱。しかし、彼はこの鍋の中に入っている材料が、彼の最も不得意とするシーフードであったということを直前まで知らされなかった。
ライダー氏のところでもカレー作りが始まっている。しかしライダーママが何やら下を向いて一心不乱に作業をしている。なんとなんと、小さい小さい豆を串にひとつひとつ、つまむように串刺しにしているのである。今日の最大の見せ物、ライダー家の串焼きしま専科の下拵えをしているのであった。
テール氏のところでは、テール氏が奥方の指揮のもと、なにやらオーブンと格闘している。今回のオフで参加者全員から絶大な賞賛を浴び、HOPE氏製作の簡単パウンドケーキと評価を二分した、用無しの、もとい、洋梨のタルトを製作しているのである。このタルトも、パウンドケーキとともに、腹をすかせ、もはや餓鬼の軍団と化してサイト中を荒し回っている、ジュニア探険隊の格好の餌食になってしまったのである。わが家でも、河原で未完成であったケーキを引き続き作成したのであったが、完成と同時に、まさに蓋を開けた瞬間にものが消え去るのを、ただ呆然として見守るしかなかったのである。
テール氏は、そこのところを敏感に察知し、最初の一枚目は各家庭の奥方にのみ配布したのだが、これが少年隊の恨みをかったのはいうまでもない。この後、二枚焼き上げたはずのタルトはほとんど少年隊の手に掛かったのである。ぼくもほんの残骸のようなのをいただくしかなかった。
テール氏も今回の企画フル参加の皆勤賞とデザート部門特別賞に輝いている。そして、二人のご子息はぼくの家の子供とともにあんまりうるさいので、特別保護命令を受けているのであった。
むつ氏は今日もあのでっかい釜で飯炊きを始めた。しかしあのラルゴのどこにこんだけでっかい荷物をいくつもいくつものっけて来たのだろうか。しかも薪まで用意してある。製麺機もでてきた。犬も乗ってる。まさに現代版秘密のおもちゃ箱のようである。
まるいさ氏のところでは、小さい子供のおねんねの時間となり、メイン会場の混乱をよそに、両親ともども子守歌の合唱である。
さて、ぼくはといえば、カレー用に物資を供給したあと、やることがなくて、人の所へ行っては、どれどれ、ふむふむ、こりゃあよいですな、などと言っては所在なげにしていたのである。
ついに見かねて、HOPE氏が
「mIKEさん、こいつを燻製にしてもらえませんか」
と言ってイカを二ハイ渡してくれたのである。活きの良さそうな刺身イカである。
「うーん、時間がないからなあ、うまくできないなあ、もう」
などと言いながら、人並みに仕事のできるうれしさよ。さっそくすっ飛んでいって下拵えに入ったのであった。
スポポポポ、下から赤い軽自動車が上がってくる。あのね、ここは、貸し切りサイトなのね、だからもう誰が来たって、テント張るスペース無いの。見て、こんなにいっぱいテントが張ってあるでしょ。管理人さん言ってませんでした?
今日は日曜ということもあって、空きスペースを探して、いろんな車がわがサイトにもやってきたが、ここも一杯でそのたびに、すみません、一杯なんです、というのが、一番下にいたぼくの仕事らしい仕事だった。
「あのー」
丸顔のかわいい女性が顔を出した。はいはい、だめよもうだめよ。
「あのー、FCAMPの方ですか?」
「はあ?・・」
「ライダーさん、いらっしゃいますか?」
「はっ、はい、おーいライダーさん、お客様ですよー、で、どちら様ですか?」
「ゆみこ§^。^§ですう」
ゆみこさんというのは、当時、ニフティキャンピングフォーラムで有名な女性会員だった。やはりキャンプの途中、佐渡からはるかここカクレハまで、『乱入』を企ててやってきたのである。
突然のお客様を交えて、にぎやかにカレー晩餐会の幕が切って落とされたのである。
□□ 雨
カレーはどこのも良い味をだしていた。ただ問題なのはその量である。みんながみんな20人分作っちゃっているから、100人分くらいの量になってしまっているのである。さらにその上、串焼き(うまい!)だの漬け物(グッド!)だの、まだまだあるよの燻製(どんとこい!)だの、餅シュウマイ(絶品)だの、大吟醸はでてくるわ、バーボン、ビールに杏酒、じゃんじゃん出てくるのである。そりゃあ明日はもう帰るしかないから、ここで出し惜しみなんかしていられない。
少年隊員はカレー鍋に列をつくって皿はたたいてるは、おとなはもうお酒がハイって、ガハハハやってるわで大混乱の様相である。
お腹が一杯になった少年隊員たちは、自分たちで焚き火を始めたようである。大人達は若干静かになって、お酒を味わう余裕が出てきたころに、雨がぽつりぽつりと降ってきたのだった。
少し頭を冷やしてやろうか、という天の神様の思し召しだったかもしれない。久しぶりの雨にあたり、タープを打つ雨の音に聞き入った。子供達の焚き火の場所は大きな大きな木の下で、その幾重にも重なった葉によって雨はまったく落ちてこない。小さい頭を寄せて、子供達だけの会話を楽しんでいる様子である。スタンド・バイ・ミーという映画があったが、今日のこの子達を見ていると、その映画のワンシーンが思い出される。
泊まって行きなよー、というみんなの誘いに乗らず、
「混浴さがすもんねー、mIKEさん悪酔いしないでねー」
といいながら、ゆみこ嬢が去って行った。
雨は、すぐに小止みになった。ランタンの灯がとてもきれいにみえる。さっきまで焚き火の所で、バーボンをくすねて行って焚き火にぶっかけ、火柱をたてていた連中も静かになった。焚き火の横で寝てしまったわが子をテントにいれた。
ふたたび静かな夜になった。
□□8月14日 撤収
この日もとても良い朝になった。
各サイトでは、それぞれが自分のペースで片づけが始まった。
そして、ひとりまたひとりと去って行った。見送りはなんだか寂しいものがあった。ぼくらも行こう。
残っている人たちに見送られ、出発した。ミラーに映る人たちの姿が小さくなった。振り切るようにアクセルを踏んだ。
楽しかったね。ああ楽しかった。来て良かった。