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□□ 02年10月13日(日)

 山から日が昇った。雲ひとつ無い青空が広がっていく。

山から日が昇りテントを照らす
夜露に濡れた

 メイメイに起きだして始動である。朝のラーメン。これもシキタリのひとつかどうかは定かでないが、ニシノ臨長が野菜を刻み、お湯を沸かし、なんでもかんでもこれひとつという鍋でラーメンを6人分作る。なかなか美味い。腹も膨れた。いよいよ出発の時がきた。

またまた動くニシノ臨長

 車2台あると便利なのである。1台でボートをスタート地点まで運ぶ。そこから川を下る。下り終えてからもう一台で車を回収に行く。この段取りである。ぼくはトヨダ事務局長と車でボートを運搬する。カキヌマ協会長以下、ミキ隊員、ニシノ臨長、クボ隊員は徒歩および電車で移動し、スタート地点の六日町板戸橋下に向かう。川下りはボートというでっかい荷物の運搬がなかなか難儀な仕事なのである。

 板戸橋のところでボートを組み立て、いよいよ出発の儀である。ニシノ臨長のご発声で乾杯である。しかしながら昨夜の痛飲がたたって水杯で乾杯しているのは、協会長、事務局長である。

そして乾杯 いざ出発!

 乗り込む。ぼくが乗るのは協会長所有の二人艇である。二人艇の場合、前席に座った人間はひたすら漕ぐのが鉄則らしい。舵は後席がとるのである。力任せに漕ぐだけならぼくでもできる。あとは協会長の、漕げ!止め!の命令に従うのみである。

 優雅に5艘の船は出発していく。水に手を入れる。ウッ!冷た!この水の中に撃沈するのはちょっとためらわれるなあ、などと思いつつ透明な水を上を滑るように進んでいく。

 魚野川は時々護岸工事のために水路が狭くなってはいるが、大体において幅広くゆったりと流れている。右手には越後三山のひとつ八海山が特長ある山頂を見せている。時々サギがバタリバタリと羽根を広げて飛んでいく。静かである。瀬音がたまに轟々と聞こえてくるが、今日は二人艇である。しかも後席には百戦錬磨のカキヌマ協会長。ぼくはひたすら漕いで行く。多少の白波など今日はまったく怖くない。むしろ喜んで突入していく。

水面も空も真っ青だ

 下り始めておよそ一時間。ちょっと波をかぶって寒くなった。休憩をかねて昼飯の時間となった。中州に上陸。ニシノ臨長がまたしてもテキパキと支度する。パン、ソーセージ、果物。そしてビール。風に吹かれて食べる。実に美味い。肌がチリチリと日に焼ける。さて、出発である。

河原で昼食

 そうこうするうち、最大の難関、八海橋にやってきた。八海橋の下はテトラポットの巣である。上流から流れてきた水は橋下のテトラポットに遮られて左へと大きく曲がる。曲がったところで行く手を阻む別のテトラポットによってこんどは強引に右に曲げられる。曲げられた水流は階段状になった水中のテトラポットの上を激流となって流れさっていくのである。

 そのクランク部分で操縦を誤ると白波に飲まれる。幸運にも白波に飲まれなかったとしても、水面下のテトラポットから複雑に湧き上がる水流でバランスを崩し沈没するのである。昨日、下見に来たときに、シングル艇が沈没するのを目の当たりにしている。

さていよいよ突入の時

 さて、粗沈協会はどう対処するのであろう。まずは岸に上がり入念に下見である。突入ポイントはすでに決まっている。右にクランクする際、いかにうまく流れの真中に船を持ってくるか。そのポイントに注意である。左により過ぎるとテトラポットの餌食になる。

 まずは、ミキ隊員が突入を試みる。ちなみにミキ隊員の船にはデジタルビデオカメラが装着してある。白波突入の模様を撮影しているのである。さあ、入った。まずは左に曲がる。問題無し。そしてすぐに右クランク。これも問題無し。さあ、階段状の激流に突っ込んだ。おお!やった。と思ったら複雑水流に飲み込まれ撃沈。後でみたらビデオカメラは確かにすべてを記録していた。実録撃沈物語。ミキ隊員いわく、ビデオに収めるためにわざと撃沈したのさ。

 続いて、ニシノ臨長、トヨダ事務局長、クボ隊員と突入。皆クリアー。クボ隊員などは、もう一本別の流れ、さながら滝壷まっ逆さまのコースに突入したらしい。舳先をズンブと水中に潜らせてから浮上するというコースを取ったという(ぼくはスタンバイの最中だったので、その勇姿を直接見ていない。残念)。

 さて、いよいよわれ等が二人艇である。二人艇は船体が大きい分だけ安定はしているが、小回りは効かない。したがって、この短くて急激なクランクをいかにコントロールするかが問題なのである。

 さあ、漕いで!という協会長の声に従い、ぼくはパドルを水流に負けない早さで回す。どんどん近づく。吸い込まれるように船に加速が加わっていく。川の流れが左に変わり始めた。ずんずんと橋脚が近づく。いよいよ突入

 船が左を向く。そしてこんどは思いっきり右に舵を取る。正面からの返し波を受けて船が右を向く。水流はマキシマム。前方に白波が立っている。突っ込む。ズドン!バシャ!ガツッ!ドン!水中のテトラポットに船底が当たる鈍い音。白波で目の前は真っ白。上下に身体が踊る。ジェットコースター着水みたいな感じ。

見よ!この我が勇姿(トヨダ事務局長撮影)

 抜けた。波が収まったところで着岸。上半身びしょ濡れである。それでもどこかに征服感というか達成感というか。満足である。これぞカヌーの醍醐味。しびれるなあ。いや、満足、満足。

 それからまたしばらくゆっくりと下っていく。浅瀬。テトラポット。軽い瀬。次から次に変化する川。楽しい。

のんびりとくだる

 浦佐大橋の少し上にあるヤナ場ではポーテージ(ボートを持って歩く)。さすがに二人艇では階段状に岩の多いところは下れないとの協会長の判断。他の会員は果敢に攻めつつ下ってくる。それぞれいろいろなコースを取ってくる。

 多聞橋を過ぎると最終ゴール地点が見えてくる。我らのテントが見える。そして着岸。川下りの終わり。実に面白かった。川旅の面白いところだけ味わったような気持ちである。上陸してボートをそれぞれが分解。それから全員で六日町にもどり、風呂、車回収、買い物。

到着!そしてまた夜へ

 買い物を済ませたらあたりは真っ暗である。急ぎテントに戻り食事の準備。今日の晩飯は。テーブルの上にツーバーナーを置きみんなで食べる。具はどっさりある。食べきれないほどある。ビールも飲みきれないほどある。疲れているのか今日は事務局長、協会長、早々に就寝である。ぼくとニシノ臨長、ミキ隊員はしばらく焚き火の周りで酒を飲み、キリタンポを食べ、それからシュラフに潜り込んだ。

鍋をつっつく
チロチロと焚き火


□□ 02年10月14日(月)

 翌朝は少し雲が多かった。目の前の川にはが上ってきていた。投網で鮭を捕る地元の親父さん。昔はもっとたくさん捕ってたもんさ。いまはだれもかわねえから、欲しいひとにあげちまうんさ。コーヒーを入れる。オジヤを作る。そして撤収。

投網で鮭を捕まえた

 帰り道湯沢の町で温泉に入る。雪国ゆかりの「駒子の湯」。それから、いまや全国的に有名らしい蕎麦屋「しんばし」でニシンへぎそばを食べる。そばは二八の田舎。うまかった。そばを食べたあと、お土産の笹団子を買い、あとは関越道を一路東京に向けて走った。

『しんばし』のへぎそばとニシン

 あっという間の3日間。休日疲れをとるための休日が必要かな、などとぼくはハンドルを握りながら考えたものだった。

 

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