□□ 95年11月 冬
「ねえ、お餅をみんなでついて食べるっていうのは判った。けど、ほかの食事はどうするの?まさか、お餅ばっかり食べてる訳にもいかないでしょ」
ぼくたちにとって3回目のオフ会キャンプを明日にひかえ、ぼくとわが妻かおりさんは、食事について相談していた。
今回のオフ会会場は岐阜県と長野県の県境、坂下町にある『椛の湖キャンプ場』だ。
その場所で『餅つきオフ』。みんなで餅をついて食べまくろうという。幹事のMOTOさん(ハンドル名)が考えた企画だ。しかし、今ならとても考えられない。いや、考えても実行したくない。するかね。しないわね。そんな労力と気力のかかる合同キャンプだった。参加者は10家族大人子供あわせて39名。
「明日こっちへくるってほんと?こっちは雪がちらついてるよ、なんだか急に冷えてきて」
妹から電話がかかってきたのは、準備も済みやれやれなどと言っているときだった。
「むこう、雪が降ってるらしいぞ」
「えーぇっ!やだ、わたし冷えるのだめ。一の瀬高原に行ったときも雪降ってきたじゃない、あのときの寒さのこと、死んだって忘れない」
「ホットカーペット持ってく。で、テントの中に敷く」
「そこまでしてキャンプするわけ?」
「する。」
そうなのだ。ホットカーペット(もちろん電源がなきゃいけない)でも、湯たんぽでも、屋外で使えるものは総動員。
このオフ会は、ぼくがキャンプ道具に対する新たな知見を得ていく端緒になっていった。
さて、当日。とてもよく晴れた気持ちの良い朝。絹のような薄い雲が高いところでさらさらと流れているようだった。
愛知県東三河の家から、東名高速と中央自動車道を快調に飛ばして走った。山は白く刷毛で掃いたようになっていた。
木曽川にかかった真新しい架け橋を渡る。つづら折りの道を駆け登ると椛の湖の入り口ゲートに到着した。午後1時を過ぎていた。
湖畔の道を中に入って行くと、先に到着しているメンバー達が迎えてくれた。
それぞれが自慢のテント、タープ、テーブルセットを自陣に広げている。
ライダー氏は、いつものように四角形のタープをパシッと張り広げていた。しかし、なにかいつもと違う。
よく見れば、そのタープから垂れ下がるように、ビニールのシートが張られている。すなわち、ビニルシートがタープの縁からどん帳のようにぶら下がっているのである。
タープの布地のグロメット(穴)から自前で取り付けたステンの鎖がぶら下がり、その一番下がフックになっている。そのフックにビニールシートをひっかけ、シート全体を屋根からつり下げているのだ。
つまり、それで一軒のロッジテントのようになっている。
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タープ型どんちょう式温室の中で考えこむライダー氏
彼の頭の中には次へのアイデアが閃いていたに違いない
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この時期。すなわち冬のシーズン。外気をさえぎることはキャンパーにとって、とても重要なことである。このアイデアと同じ、スクリーンテントにビニルシートを巻きつけた、温室ハウスなるものが、キャンピングフォーラムで考案されている。
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アルペンのスクリーンテントの内側に
ビニルシートを貼り付けたぼくの温室
以後、この温室がぼくらのキャンプを席巻する
後年、この実売モデルが登場するが、すでに
ブームは去っていた
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そのアイデアは後年、実際にアルペンから商品化され、日本のキャンプシーンを変えていくことになる。
ようするにオートキャンプというのは、家財道具一式を屋外に持ち込み、ヌクヌクと過ごすことなのだ。
ぼくはそう悟った。
わがやの子供二人は、すでに旧知の仲となっているユータローやヤンマー兄弟達とサッカーボールで遊び始めている。彼らは夜になって、あたりがしんしんと冷え込んできても、全力でサイトの中をかけまわっていた。
当時、キャンプに来ても、ぼくはあまり子供と遊ばなかった。それは、大人としてやることが多すぎて、子供達と遊んでいる暇がなかったのだ。今にしてみれば、もう少し絵に描いたようなオヤジを演じてもよかったかもしれないと思う。
みんなで徒党を組み、群をなして遊んでいる子供達を見ていると、とてもほっとしたものだ。
子供達が小さな額を寄せ合ってなにかたくらみごとをしている様子は、実にほほえましく、そのままいつまでもそうしていてほしいと思った。
鍋とざるを使って最初の餅米が蒸し上がり、さて餅つきの始まりである。
臼は石臼、杵は年季の入った木製である。ぺったんこ。すると歓声が、おーっ、続いて拍手がパチパチパチ。ぺったんこ、おーっ、パチパチパチ、が続いていく。
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真ん中は某フォーラムのシスオペだった人です
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ぼくです
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Tさんです
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ママ達がお餅にしていきます
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つぎつぎと湯気を上げてつき上がる餅、おとなもこどももかわるがわる交替して杵を振り上げる。つき上がった餅はこれまたどんどんと形が整えられていく。あたりはもうとっぷりと日が暮れて、空にはきらきらと冬の星座が銀色に輝いていた。
わーっきれいな星だねえ、とだれかが歓声をあげた。みんなが一斉に空を見上げる。いつしか会場はランタンの暖かい光に包まれ、そこだけが雪のかまくらの内部のように輝いていた。
翌朝もよく晴れていた。気持ちの良い一日が予感できた。このキャンプ場の良さは施設も整っていることもあるが、ここからの景色にもある。湖とはるかに見える山々の稜線とのバランスが安心感を与える。
「おとーさん、白鳥がいるよ!」
次男のたくやが湖面に浮かぶ水鳥を見つけてやってきた。なにか食べ物をあげてみな、といって朝食用のパンを手渡した。近くにいた子供達もワーッと歓声をあげながら走っていった。正体はただのアヒルだったのだが、帰ってきた子供達はみな、そんな生き物との遭遇に興奮していたようである。
このキャンプ記には原文があります。
それはぼくがニフティのキャンピングフォーラムに投稿したものです。
すでに@ニフティのキャンピングフォーラムは閉鎖されてしまいました。
ですから、興味のある人のために原文を参照できるようにしました。
『mIKEの餅つきオフ記』
注意:長いです |